森林環境制御GEOECOSYSTEM CONTROL AND WATERSHED MANAGEMENT
森林環境制御

歴史地震による崩壊跡地を訪ねて

2024年11月27~30日に現地調査で長野県の八ヶ岳山麓(千曲川上流部)と阿智川(天竜川上流部)、岐阜県の上村川(矢作川上流部)を訪問しました。
 
 
今回は、地質学や地形学の研究者らとともに崩壊地を巡り、現地に残る崩壊堆積物や堆積物中に埋まった埋没木(埋没林)の調査を行いました。
 
八ヶ岳山麓を流れる大月川の周辺には大小さまざまな凹地形(湖沼)や凸地形(小丘)があり、八ヶ岳山体の大規模崩壊によって発生した土砂が堆積した痕跡地形(流れ山地形)ではないかと考えられています。
さらに、その大規模崩壊の原因となったのは、西暦887年に起こった南海トラフの巨大地震である仁和(にんな)地震ではないかとの仮説も立てられており、多くの研究者が注目しています。
 
大月川周辺やそれより下流の千曲川沿いでは、以前よりたくさんの埋没木が見つかっています。
これらの埋没木は大規模崩壊が起こった年を明らかにする有力な手がかりになる可能性があります。
樹木に固定された炭素の同位体比(質量数14の放射性同位体である14Cと質量数12の安定同位体である12Cの比率)であったり、年輪の幅や年輪内(セルロース中)の酸素の同位体比(ともに安定同位体である質量数16の16Oと質量数18の18Oの比率)の変動パターンを用いた年代測定法が開発されていて、その樹木がいつごろ枯死したかを推定できるからです。
 
 
1日目の調査では、大月川沿いと大月川と千曲川の合流点周辺を巡り、現地に残る崩壊堆積物や堰き止め湖沼堆積物、それらの堆積物中にある埋没木などを観察しました。
2日目の調査では、長野・岐阜県境に移動し、天竜川水系の阿智川や矢作川水系と上村川で西暦1586年の天正地震で起こったとされる崩壊地を歩いて、崩壊堆積物や埋没木の観察を行いました。
 
 
今後もこうした共同研究を進めながら、将来の土砂災害予測につながる知見を見つけていければと思います。
 
 


写真1, 2:八ヶ岳山麓、猪名湖(松原湖)岸の露頭面にみられる礫岩の地層。
円礫~亜円礫主体の礫層(鍵掛礫層と名付けられています)で千曲川が運んできた土砂とみられます。
古い時代に堆積したもののため、固結した礫岩になっています。

 


写真3:千曲川河岸の露頭面にみられる岩屑流堆積物の地層。
大規模崩壊が起こったとされる大月川源流から数キロ下流の地点にも、崩土が岩屑流となって流れ下った痕跡が残されています。
堆積物中には、大月川流域などに多い熱水変質した鉱物が多く混じっており(活火山ならでは)、手にとるとほんのり硫黄臭が感じられます。

 


写真4:千曲川に流入する支川の杣添(そまぞえ)川河口付近にみられる縞々模様をした湖沼堆積物の地層。
湖沼堆積物というのは、細かい砂や泥(シルト、粘土)が静かに堆積してできた地層のことで、水の流れのほとんどない湖や沼の底にできるものです。川沿いに湖沼堆積物が見つかるというのは、その川がかつて(土砂などに堰き止められて)湖になっていたことを示しています。

 


写真5, 6:古い崩壊堆積物の上を歩く。
現在はスギ人工林となっていますが、足元にあるのは古い時代の崩壊堆積物です。その証拠に、川が洗掘した場所からは崩土に埋没した倒木がごろごろ出てきます。

 


写真7, 8, 9:極寒の日でも山を歩けて幸せな人たち。
途中雪がちらつくこともありましたが、みんな元気で無事に山行を終えました。
最後の記念撮影は岐阜県恵那市の上村川沿いにある「海」という名前の山間の集落にて。

posted at 2024.12.2
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