森林環境制御GEOECOSYSTEM CONTROL AND WATERSHED MANAGEMENT
森林環境制御

南アルプス遠山川の源流部へ

2023年10月25~28日に現地調査で長野県の遠山川流域を訪問しました。
 
 
今回は、川沿いに多くの埋没林が残されている遠山川の源流部で、地質学や地形学の研究者らと現地調査を行いました。
遠山川源流部に広がる埋没林は、西暦714年(715年との説もあり)の遠江(とおとうみ)地震により発生した大規模な斜面崩壊によって遠山川が堰き止められて形成されたものと考えられています。
これまでにも、年輪年代測定法を用いて土砂に埋没した樹木の枯死年代推定が試みられましたが、当時は年代測定技術が今よりも発達していなかったため、追試が必要とされています。
遠山川の源流部には非常に多くの崩壊跡地があって、その中には遠江地震以降の地震や降雨で発生したものも含まれているからです。
 
1日目の調査では、遠山川本流に面する矢筈山北斜面の崩壊跡地に向かい、現地に残る崩壊堆積物や埋没林などを観察しました。
2日目の調査では、遠山川支流の池口川を堰き止めた池口崩れと呼ばれる崩壊跡地を歩き、崩壊堆積物や埋没林の観察、ハンドオーガーと呼ばれる手動の掘削器具を用いた地質調査、ドローンを用いた地形調査などを行いました。
 
 
歴史的な事象の探求には、多くの時間や労力が必要で簡単に結論づけることはできませんが、ミステリーを解くような面白さがあります。
今後も他分野の研究者との共同研究を進めながら、将来の土砂災害予測につながる知見を見つけていければと思います。
 
 


写真1, 2:遠山川源流部に残る埋没木。
川沿いを歩いていると、砂礫堆からにょきっと突き出した立ち枯れ木に出くわします。
過去の大規模崩壊による土砂で埋没した樹木が、河川の侵食によって再び地表にあらわれたのだと考えられます。
こうした埋没木の中の放射性炭素濃度や年輪を詳しく分析することで、この樹木が枯死した年代を推定し、そこから大規模崩壊の発生時期を特定しようとしています。

 


写真3:巨大な埋没木。
こちらは写真1, 2とは別の地点で見つけたもの。
幹の直径が1m近くある巨木です。
このような巨木が多数発見されていることから、当時この場所にはよく発達した老齢林が広がっていたことが推測されます。

 


写真4:崩壊跡地斜面の現在の様子。
崩壊跡地の斜面にとりつくと、苔むした大きな岩がごろごろとしています。

 


写真5:巨礫の合間を縫うように川沿いを歩く。
崩壊跡地のそばの川には巨大な岩が堆積しています。
この地域の地質はジュラ紀から白亜紀にかけての付加体で構成されていますが、特にこの地点では玄武岩質のものやチャートが目立ちました。

 


写真6:下栗の里から南アルプス(赤石山脈)を望む。
遠山川流域には、古くから急傾斜地で農業を営む下栗集落があります。
ここからは赤石山脈の南側の主稜線を一望できます。写真左端に映るのが聖岳(標高3013m)で、そこから右に緩やかな鞍部を挟んで次にあらわれるピークが上河内岳(標高2803m)です。
南アルプスは甲斐駒ヶ岳と仙丈ケ岳しか登ったことがないので、いつかはチャレンジしてみたいです。

 


写真7(おまけ):宿泊施設より中央アルプス(木曽山脈)を望む。
写真中央にある大きな凹地形が摺鉢窪カールと呼ばれる氷河地形。
カール(kar、cirque)は、氷河の流動によってできた侵食地形のことで、(氷河)圏谷とも呼ばれます。
中央アルプスの稜線部がかつては氷河に覆われていたことを示しています。

 


写真8, 9, 10, 11(おまけ):冬支度の中央アルプス木曾駒ヶ岳。
調査の最終日には、飯田市から駒ケ根市へと足を延ばし、中央アルプス最高峰の木曾駒ヶ岳に登りました。
日帰りのため、千畳敷カールから乗越浄土(のっこしじょうど)へ上がり宝剣山荘までを往復するショートコースでしたが、晩秋の中央アルプスの雰囲気を味わうことができました。

 
 



動画1, 2(おまけ):ハンドオーガーを用いた地質調査の様子。
ハンドオーガーと呼ばれる掘削機器を用いて、地面の中から土層や砂礫層の固まり(コア試料)を採取します。
採取された試料がどのような物質で構成されているか、試料の中に年代測定の可能な物質(木片など)が含まれているか、などを詳しく調べることで地層の成り立ちを探ります。

posted at 2023.10.30
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