日本のように山がちな地域では、ひとたび大雨や地震があると多くの山崩れや土石流が発生します。こうした地域で土砂災害の発生やその兆候をつぶさに捉えるためには、広い範囲を俯瞰する「鳥の目」が必要になります。
近年は、人工衛星、航空機、ドローンなどを用いたリモートセンシング(遠隔からの地表探査)技術が発達したため、「より広く、より詳細な」地表の情報が得られるようになってきました。そこで、こうした情報を地質図や地形図などと統合して、土砂災害の危険性の高い場所を特定する手法を研究しています。
中でも、航空レーザー測量は、森林とその下の斜面のかたちを同時に計測することができる画期的な技術です。測量データから森林や斜面の立体形状を解析し、山崩れの兆候となるごく小さな斜面の変形などを検出しようとしています。
図:航空レーザー測量データによる森林と斜面の形状解析
(2016年4月の熊本地震発生直後に行われた測量データを使用)
前述の航空レーザー測量データを解析していると、現在は森林に覆われた斜面にも古い山崩れや土石流の傷あとが無数に残されていることがわかります。その中には、甚大な土砂災害につながる恐れのある大規模な山崩れの痕跡もあります。
しかし、こうした山崩れの多くは記録がなく、いつ、どのようにして起きたのかがわかりません。将来、大規模な山崩れが発生する可能性がどの程度あるか予測するためにも、長期にわたる土砂災害の歴史を繙いていく必要があります。
そこで、樹木の年輪や有機物中の放射性炭素濃度、噴火した年代のわかっている火山灰などを用いて地層の年代を測定し、大規模な山崩れがいつ、どのようにして起きたのかを解明しようとしています。
写真:山崩れによって埋没した樹木の発掘と年輪試料の採取
(釜無川水系・小武川上流部、ドンドコ沢での発掘調査の様子)
写真:採取した年輪試料
(樹齢300年以上のツガ属(Tsuga)個体)
図:年輪セルロース中の酸素同位体比の変動をもとに決定した暦年代
- ・ 熊本県、阿蘇火山周辺
(火山灰を主体とする土層の発達、斜面崩壊の発生頻度、崩壊発生メカニズムの調査)- ・ 愛媛県、吉田半島周辺、忽那諸島、芸予諸島ほか
(土地利用履歴と豪雨による斜面崩壊との関係、樹木根系の崩壊抑止効果の調査)- ・ 長野県ほか、日本アルプス山岳域
(大規模崩壊の発生履歴および発生要因の調査)
写真:阿蘇火山・高岳周辺(2012年7月豪雨などで表層崩壊が多発している地域)
写真:阿蘇火山・高岳周辺(火山灰が斜面に厚く堆積し、表層崩壊の原因となっている)
写真:南アルプス・地蔵ヶ岳ドンドコ沢(9世紀後半に起こった大規模崩壊跡地)
- ・ 北海道日高地方、沙流川流域
(土石流の発生頻度推定、沖積錐の形成による土砂滞留過程の調査)- ・ 北海道胆振東部地方、厚真川流域ほか
(火山灰を主体とする土層の発達、地震による崩壊発生メカニズムの調査)- ・ 新潟・長野県、東頸城丘陵ほか
(地すべり地形の発達と地すべり災害の発生要因の調査)- ・ 東京都、伊豆大島
(火山灰を主体とする土層の発達、豪雨による崩壊発生メカニズムの調査)- ・ ほか多数
(海外調査としては、ニュージーランド北島ルアぺフ火山、ドイツ南部ツークシュピッツェ山(氷河)、ベトナム北部ラオカイ地域、タイ北部チェンマイ地域など)
写真:沙流川流域・宿主別川(2003年8月豪雨時の急激な河床上昇で埋没したハルニレ林)
写真:厚真川流域(2018年北海道胆振東部地震で発生した火山灰土層の表層崩壊)
さまざまなリモートセンシングデータを用いた調査、解析を行っています。
- ・ 合成開口レーダーデータ
- ・ 光学衛星画像データ
- ・ 航空レーザー測量データ
- ・ UAV(ドローン)写真測量データ
図:遠山川流域・池口地すべり(2013年1月測量, 解像度1m)
図:遠山川流域・池口地すべり(2013年1月測量, 解像度1m)
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